渡辺英明くん 奇跡の生還 その5
「今日も元気! 明日も元気!」
これでいこう!
『あけましておめでと。ことしもよろっくまっす(よろしくおねがいします)!』と、新年のご挨拶を彼の声で聞く事が出来るとは…。
何とも幸せな2010年の幕開けであった。
奇跡の嚥下造影検査から一ヶ月。この間、何度もスピーチカニューレを取替え調整して、経口摂取のリハビリも頑張って……、いよいよ退院の日を迎えた。細かな申し送りと引き継ぎの後に、国立神経精神センター病院を出発。到着間近の本部前駐車場には、たくさんのスタッフがお出迎えに来てくれていた。
車を降りての第一声『ただいま!』は、約18ヶ月ぶりに聞く彼の生声。「おかえり!」「良かったね!」と共に感動の大拍手と歓声が沸き起こった。うっすらと目には涙……。本当に嬉しかったのだと思う。自室にあがり、さっそく昼食。アットホームでの生活が再びスタートした。
ピアノ科のレッスンも再開し、体調の良い日には合唱団の練習にも参加する。さらに、念願の和太鼓教室にもゲスト参加するなど、充実した日々の生活を楽しんでいる。そして12月。毎年楽しみにしているミュージックパーティーの時期がやってきた。昨年は、まだ入院中。外出という形で聖母病院を抜け出し、食事無しで一部分のみ参加した。しかし、今年はみんなと一緒にお食事も! 嬉しさのあまり、思わず涙がポロリ。メインゲストのノッポさん達にステージ上で花束を渡し、最後の〝みんなで歌おう〟のコーナーまで思う存分楽しんだ。
退院して早3ヶ月。前回同様、試行錯誤の日々は続く。
ペースト食やトロミ水分等についてケアスタッフが研究し、現在の問題点や今後の課題についても事あるごとに知恵を出し合う。上手くいく事ばかりでは無いが、勉強になる事がたくさんある。何より、彼のおかげでアットホームが明るく楽しい。2101年も始まったばかり。今年もどんな奇跡に出逢わせてくれるのか……。
記/北原 勢