渡辺英明くん「命輝け」
奇蹟の生還 渡辺英明くん
その3
夏の一番暑い時期も元気に乗り切る事ができた。ゆきわりそうのイベント「夏祭り」に参加したりコンサートを聴きに行ったりと、定期受診以外の外出も多くなってきた。ピアノの発表会に向けて練習も頑張っており、ステージ上のめくりプログラムも直筆で書いて準備した。時に、「血痰が出ています。」とアットホームスタッフより携帯に連絡が入るが、止血剤を服用して主治医に報告、スタッフも手慣れたものだ。
9月6日(日)ピアノの発表会に出演。ボヘミヤ民謡の「ぶんぶんぶん」をソロで、自作曲の「はじめての発表会」を中沢先生との連弾で披露した。久々のステージ、そして始めてのピアノ発表会でかなり緊張した面持ちではあったが、お姉さんや叔父さん、そしてゆきわりそうのたくさんの仲間たちに見守られて、楽しいひと時だったようだ。
自分の室に戻ってからも、プログラム片手に「僕ピアノ弾いてきた!」と元気いっぱいのアピールであった。
聖母病院及び国立精神神経センター病院に、スピーチカニューレ(声が出てお話ができるもの)への変更の相談をしていた。以前に比べると痰の量が減ってきているからである。聖母病院からは専門医がいないので判断は難しいとの事だったが、国立精神神経センター病院からは是非やってみましょうと、古澤医師より嬉しいお答えをいただいた。
2週間~3週間をめどに呼吸や発声を評価し、検査等で全体状況を把握しながら診断、判定を行うとの事。今ならベットが空いているというお話に、「暑い時期は終わり、寒くなる前で時期も丁度良い。また、インフルエンザもまだそんなにはやっている訳でもない……」と、またしても奇跡的なタイミングの巡り合わせに、6日後の入院を即決する。
入院の説明には、さすがに首を傾げたが、かつては、宴会部長の異名が付く程のおしゃべり好き。「頑張ってみる!」と入院を決意してくれた。
9月15日(火)国立精神神経センター病院入院決定。頑張れ英くん!
その4
一昨日、スピーチカニューレへの交換が可能になるかどうかの検査を受ける為に国立精神神経センター病院へ再入院。その検査第一弾が、今日の嚥下造影検査であった。ゴックンと飲み込む(嚥下の)瞬間をレントゲンで写しながら、正しく食道に入っているか?気管に入ってしまって(誤嚥して)いないか?を調べるもの。今の英くんの状態を理解し、今後につなげてゆく為には医師の口頭の説明だけでは分からないと思い、検査の立会いをお願いした。
結果は……、素人の私でも分かるくらい、飲み込んだ食べ物がキレイに食道に入ってゆくのが見えた。一瞬、食道と気管が反対だったかな?と思ってしまうくらいに……、考えもしなかった光景であった。前回、入院時の同検査では、誤嚥そして即吸引だった為、先生方も吸引覚悟での検査スタートであった。しかし、今回は違った。前回も検査を担当した嚥下専門の神経内科医は「どうして、こんな事が!」と。そして、主治医の古澤医師も「想像をはるかに超える!」と、驚きを隠せない様子であった。看護師からは「明日から食事スタートね(笑)!」と冗談を言われる等、部屋の中は何とも和やかな検査現場に一転した。
それにしても、経口摂取は1年7ヶ月ぶり。通常考えると、使わない機能は衰えてゆくのが自然の姿なのに、衰えるどころか進化していた。これは「生きよう」という意欲がどれほどのリハビリ&トレーニングになるのか、ということを、実証してくれている。どんな、長編超大作の映画やドラマよりも感動的。「あの男が、またしても“奇跡”を起こしました!」姉そしてゆきわりそう報告のへ電話を入れた。
日頃、当たり前の様にやっている、飲む事や食べる事がどれだけすばらしい事なのか…。というのを再認識させられた特別な日となった。
行くまでは、この様な報告ができるとは夢にも思わず「何故、誤嚥するのか?」を今の英くんの状況と共に医学的にしっかり理解できるのか?また、その事を、ゆきわりそうの皆に分かりやすく説明できるのか……?と行きの車内ではインターネットで調べた文献を読み、さらにST(言語聴覚療法士)のスタッフに資料を求めたりと、不安のかたまりであった。しかし、そんな不安も全く無用。この様に、素敵な報告ができる事、奇跡の瞬間に立ち会え、感動を分け与えてくれた英くんに感謝の気持ちでいっぱいです。
早速、翌日よりムースを使っての経口摂取のリハビリがスタートしています。
記:北原 勢