●姥山寛代の詩歌
2005年12月23日
第18回ミュージックパーティー新成人を祝う会によせて
姥山 寛代
障害を持つ人が20歳になる時期に、ゆきわりそうでは新成人を祝う会を行います。
20歳になるまでの母親が荷う数々の苦悩からにじみ出る思いを伺うたびに、
私自身の心に深く刻み込まれる不条理を、毎年詩歌としてお伝えしています。
ただ不条理をお伝えするだけでなく、どこか明るく伸びやかな納得できる「陽」を加えてと思っています。
「うすむらさきの魔法の手袋」
「おりこうしないと あんな子になっちゃうのよ」
そのお母さんは電車の座席で暴れるわが子にいいきかせています
小さな声ではなく 2米ほど離れている私にもよく聞こえました
座っている人も まばらに立っている人も 何事もなく聞き流している様子です
小学校5年生になった君は 学校から帰ると電車に乗って
三十分ほどの時間を私とすごす このプログラムが大好きでした
座席に二人で座って 窓の外を見ながら
「空が青いですよ お陽様赤いでーす」 「バイクが走っていまーす」「電車より早いですね」
いつものように座席に座れない君はぐずりだし しまいには床に座って奇声をあげ始めました
その日 私はいつもの腰痛がひどくなり 君を立たせて落ち着かせることができません
車内の誰もが「何だ これは」と言いたげな視線と表情になりました
そのお母さんの声は私の耳奥で 君の声と一緒になって鳴りひびきます
こんな事は山ほどであったものです
何事も運命 諦める事 忘れる事 人に頼らない事 どんな事にも耐えていくんだ
泣きたいときはお風呂に入った時に泣く事 誰にもみつからないで泣けるから
私は負けない と乗りこえてきました
でも今日は「どうにもならない」「ああどうしよう」と思った瞬間
私の涙のつぼは突然にあふれ 一斉にポロポロ ポロポロあふれてきました
次の駅で降りよう ここから逃げ出そうと思うのですが
君をひきずる力さえなく 立ちすくんでいました
つぎの駅につきました 一人のご婦人が「あら どうされました?」と近づいてこられると
奇声を上げている君を立たせてくれました
私の手にハンカチを握らせて 片方の目でパチンとウィンクを
君がすこし落ち着くとポケットから 毛糸の手袋を出しました
「これは手袋です ほらお指を入れてみましょう 一つ 二つ 三つ 四つ 五つ
お指は五本ありまーす」
手袋は魔法のように 次々とたのしい遊びをくりひろげました 私たち親子は救われました
いつもの駅に着きました ホームから電車がみえなくなるまで 手を振り続けていました
今でも大切にとってありますうすむらさきの手袋
いろいろな約束事を自分で作り たくましく生きる事が私を支えると思っていました
この時から 人は支えあわなければ生きていけないのだ 人を頼ることは人を信じることだ
人に頼らないことは人から頼られることを拒むことだ ということを知りました
会場の皆様 ずい分たくさんのお力を今日までいただきました
こんな多くの方々に祝福される幸せに感謝いたします
どこかできっと元気に生きてらっしゃるご婦人に
ご報告をいたします
◎当日の様子です◎
今年はメインゲストとしてヴァイオリニストの松野迅さんをお招きしました。
ストラディヴァリウスの華麗な響きに会場は包まれます。
出席者は約430人。
いつもの会場で和やかに食事をしながら音楽を楽しみました。